まず結論から

何度も読み返している、お気に入りの一冊だ。毎回ワカコがひとり飲みをして、ひとつ食べて、ひとことつぶやくだけ。本当にそれだけの漫画なのに、なぜか何度読んでもクセになる。ほっこり成分の補給が必要なときに棚から出てくる、そういう存在の作品。

食べ物系のマンガが好きなのもあるが、ワカコ酒はその中でも別格だと感じている。理由はあとで書く。

どんな漫画か

主人公は村崎むらさきワカコ、26歳のOL。趣味はひとり飲み。仕事を終えたあと、その日の気分で居酒屋に入り、ひとつふたつ酒の肴を頼んで、お酒を一杯やって、満たされて帰る。本当にそれだけだ。

毎回読み切りの構成で、大きなストーリーラインは無い。恋愛も波乱もほとんど無い。あるのは、ワカコと、目の前のひと品と、口に運んだ瞬間のひとことだけ。

「これで飽きそう」と思うのに、不思議と飽きない。それどころか26巻続いている今も、新しい巻を読むたびに新鮮なほっこり感がある。その理由を、次の章で書きたい。

「言葉が枯れない」という凄さ

この漫画の一番すごいところは、ナレーション・心象の表現が、毎回ちゃんと新しくなることだ。

グルメマンガを何冊も読んでいて感じるのは、巻数が増えると「美味しい」のバリエーションが尽きてくる作品が多い、ということ。同じ料理に同じような褒め言葉、同じような擬音、同じような決め台詞。長く続いている食漫画ほど、似たコマ割り・似たリアクションが繰り返されがちで、読者としては「またこれか」と感じる瞬間がある。

ワカコ酒はそうならない。26巻続いている今も、新しい言葉・新しい角度のひとことが次々と出てくる。同じ食材でも、季節が違えば違う表現になる。同じ日本酒でも、その日の気分で違うつぶやきになる。あの一品に対して、まだその言い回しが残っていたのか、と毎回小さく感心させられる。

これは語彙力と観察眼の問題だと思う。「飲んで食べているだけ」をここまで続けて、それでも詩が枯れないというのは、グルメマンガとして相当に難しいことを成立させている。2000冊以上読んできた中で、食漫画における「言葉の更新力」という意味では、自分はワカコ酒を一番に挙げたい。

外で飲まない自分が、飲みに行きたくなる

正直に書いておくと、自分はお酒は好きだが、外で飲みに行くことがほぼ無い。家でちびちびやる派だ。

それなのに、ワカコ酒を読むと毎回「ちょっと飲みに行きたいな」と思わされる。これは結構不思議な体験で、自分の生活パターンを変える方向に押してくる漫画は、そう多くない。

理由を考えてみると、ワカコの飲み方が「めちゃくちゃ気持ちよさそう」に描かれているからだと思う。誰かと一緒に騒ぐ飲み方ではなく、自分のペースでひと品ずつ味わって、ひとことつぶやいて、満足して帰る。外飲みのいちばん良いところを、いちばん理想的な形で見せてくれる漫画だ。これに当てられて「自分もちょっとだけ、ああいう時間が欲しいな」と思わされる。

人を居酒屋に行かせる漫画。グルメマンガとして、これ以上の褒め言葉は無いと思う。

キャラクターについて

ワカコは可愛らしい。容姿の話というより、飲みと食に対する真面目さと素直さが可愛い。お店選びの軸、注文の組み立て、一口目の集中。趣味に対して誠実で、独りの時間を大事にしている女性として描かれていて、好感が持てる。

脇役は薄めだが、それでいい作品だと思う。たまに登場する家族や同僚のエピソードは、ワカコ酒という淡々とした世界に小さなアクセントを加える程度で、メインはあくまでもワカコと目の前の一杯。余計なドラマを入れずに、ひとり飲みの空気感だけで成立させているのが、この作品の品の良さだ。

絵・演出について

線はシンプルで、画面は基本的にすっきりしている。それなのに、料理がちゃんと「旨そう」に見えるのが不思議だ。

細密な描き込みで魅せるグルメマンガもあるが、ワカコ酒はそうではない。食材の特徴をぱっと掴んだ線で、必要十分の旨さを伝えてくる。そして決め技は、料理を口に運んだあとのワカコの表情と、その横に置かれた一言。あれが効くから、絵全体が引き締まる。

温度感の表現もうまい。湯気の立ち方、お酒のグラスに浮かぶ水滴、油の照り——画面の情報量は控えめなのに、温度がちゃんと伝わってくる。

気になった点

ストーリー漫画としての大きな展開・成長・波乱はほぼ無いので、それを求めて読むと拍子抜けする。「淡々としている」を退屈と感じる人には合わないかもしれない。

それから、これは作品の問題ではなく自分の問題だが、空腹時に読むと危険だ。ページを閉じた後の「外で何か食べたい欲求」が普段より強くなる。財布の防衛のために、満腹時に読むことを推奨する。

Verdict
総評 — ワカコ酒を読むべきか
こんな人におすすめ
  • 食べ物系・グルメマンガが好きな人
  • 淡々とした日常系を心地よく感じる人
  • お酒・居酒屋の雰囲気が好きな人
  • 寝る前にほっこりして眠りたい人
  • 何度も読み返せる「お守りマンガ」を探している人
こんな人には向かないかも
  • 大きなストーリー展開を求める人
  • お酒に縁が無い・興味が無い人
  • 淡々とした構成を退屈と感じる人
飲んで食べているだけなのに、言葉が毎回新しい

グルメマンガで一番大事なのは「料理を毎回新しい言葉で愛せること」だと、自分は思っている。ワカコ酒はそれを26巻続けて成立させている、稀有な作品だ。外飲みをしない自分にすら居酒屋に行きたいと思わせ、棚に置いておくだけで安心する一冊。何度でも読み返せる、お守りのようなグルメマンガとして、自信を持っておすすめできる。

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