まず結論から
先に正直に言っておきたい。実は、最後の山王工業戦だけ、自分はまだ読んでいない。直前まで読んで一息ついて、気がついたら年単位で温めてしまっていた。知り合いには「なんのためにここまで読んだんだ」と呆れられている。それでも今日もまだ、期待に胸を膨らませながら温めている。
そんな読み手が語るのは反則かもしれない。それでも、ここまでで言い切れることがある。これは、マンガという表現が到達できる頂点のひとつだ。バスケットボールを知らなくても関係ない。スポーツマンガが苦手でも関係ない。読めばわかる。
ストーリーについて
不良少年・花道が、ひょんなことからバスケ部に入部するところから始まる。王道の少年スポーツマンガの骨格を持ちながら、その肉付きが普通じゃない。
花道は最初から才能の塊ではない。むしろ運動神経はともかく、バスケの技術はゼロ。そこから積み上げていく過程が、嘘くさくなく、かつドラマチックに描かれる。
そして、ここまで読み進めると最後に山王工業戦が待っている。多くの読者が「マンガ史上最高の試合」と語る、あの山王戦だ。——白状すると、自分はそこを読まずに温めている。直前まで読んで一息ついたら、気づかないうちに年単位で「次に読む」のまま月日が流れていた。メインディッシュを目の前に置いたまま、もう何年もテーブルに座っている、そんな状態だ。
良くも悪くも、これは明確に自分の一次体験だと思う。世間で語り尽くされた山王戦を、この歳になってまっさらな状態で読める。それは贅沢でもあり、ずっと宿題を抱えている息苦しさでもある。
キャラクターについて
花道だけじゃなく、全員が生きている。流川も、三井も、宮城も、ゴリも。それぞれに背景があって、それぞれに見せ場があって、それぞれの成長がある。
特に三井の話は反則だと思う。あのエピソードだけで一本マンガが描けるくらいの密度がある。回想なのに、あれほど感情を動かされるとは思っていなかった。
対戦チームのキャラクターも薄くない。翔陽、陵南、海南、豊玉。どこも「こいつらには負けてほしくない」と思える瞬間がある。それがスラムダンクの強さだ。(山王のメンバーについては、まだ自分の中で像が結ばれていない。読んだあとに追記するかもしれない)
絵・演出について
井上雄彦の絵は、動きを描くことにかけて別次元にいる。バスケの試合中の動き、重力、汗、息遣い——それが紙の上から伝わってくる。
無音のコマ使いが特に天才的だ。言葉を使わずに感情を伝える演出が随所にあって、それが言葉で説明されるよりもずっと深く刺さる。三井の「バスケがしたいです」のシーンなど、たった一コマ・一ページに人生が凝縮される瞬間が何度もある。
ここでもう一つ正直に書いておきたい。有名な「左手はそえるだけ」、あのフレーズは何度も耳にしているのに、自分は実物のコマをまだ見ていない。あれが効いてくる山王戦のクライマックスを温めているからだ。引用されまくっているセリフを、引用元のコマでまっさらに浴びる体験を、自分はまだ取ってある。マンガを2000冊以上読んできた人間としては相当に変な状態だが、それも含めて自分のスラムダンク体験ということにしている。
気になった点
正直に言うと、序盤はテンポが遅いと感じる人もいると思う。ギャグシーンが多く、真剣なスポーツドラマを期待して読み始めると「あれ?」となるかもしれない。
でもそれは後半の熱量への助走だったのだと、読み進めると気づく。序盤があるから後半が輝く、という設計になっている。
そして最後にもう一つ、これは作品ではなく自分の話。「最後の山王戦を読まずに何年も温めている」という状態は、たぶん人にはあまりおすすめできない。直前まで読んだ熱が冷めないうちに最後まで行くのが、スラムダンクの正しい読み方だと思う。自分はそれを失敗した側の人間として、ここに記しておく。
- スポーツマンガをあまり読んだことがない人
- キャラクターの成長を丁寧に追いたい人
- 映像ではなくマンガの表現力を体感したい人
- 完結済みで一気読みしたい人
- 序盤のギャグ展開が苦手な人
- すっきりした結末を求める人
スポーツマンガの金字塔とよく言われるが、それ以上だと思っている。成長、友情、挫折、再起——少年マンガが持てる要素のすべてが、バスケットボールというフィールドで爆発する。最後まで読み切れていない自分が言うのも変だが、それでも断言できる。2000冊以上読んできた中で、「これを読まずにマンガを語るな」と言いたくなる数少ない作品のひとつだ。(そして自分も、いつか必ず最後まで読む)