まず結論から
めちゃくちゃ勉強になるし、めちゃくちゃ面白い。不動産業界という、誰もが一度はお世話になる、それでいて中身は素人にはまったく見えない世界。その内側を、嘘がつけなくなった営業マンの視点から覗ける作品だ。
マンガとしての面白さと、実生活に直結する知識量を、両方の手で同じくらい握っている稀有な一作。「面白いから読む」「勉強になるから読む」の両方の動機で開ける、贅沢な漫画体験になっている。
どんな漫画か
主人公は永瀬財地、登坂不動産のトップセールスマン。営業成績は社内一位、ただし顧客を上手く言いくるめる「嘘の達人」というスタイルで成り上がってきた男。
ある日、永瀬は祠を壊した祟りで「嘘がつけなくなる呪い」にかかってしまう。営業の生命線である「都合のいい嘘」が一切口にできなくなった彼が、顧客と業界の中でどう生き抜いていくか——という設定の不動産業界お仕事マンガだ。
構造としては1話完結に近い形式で、各エピソードで一つの不動産取引や業界の問題を扱う。賃貸契約のトラブル、両手仲介の闇、おとり物件、地面師、相続、リフォーム詐欺——「不動産でこんなにジャンルがあるのか」と毎話驚かされる豊富なテーマ設定が魅力だ。
小説を読むときのように、集中して読みたい
この作品の特徴は、文字が多く、専門用語も多く、少々難しいこと。マンガを「テレビや動画を見ながらサラッと読む」スタイルだと、情報が頭に入ってこない瞬間がある。
そのため、個人的にこのマンガは小説を読むときのように、ながら読みではなく集中して読みたいと感じている。マンガとしてはやや異例の読み方を要求してくるが、その代わりに、集中して読めば実生活に持ち帰れる知識がしっかり残る。「腰を据えて読むことに見合うリターンがある」タイプの漫画だ。
読み終わったあとに、不動産業者の前で言われる言葉の一つひとつが、別の意味で見え始める。マンガを読んでこれだけ「世の中の見え方」を変えてくれる作品は、業界もののジャンルでも上位に入ると思う。
「不動産業界には2種類の人間がいる」
不動産業界を表した言葉として、こんな言い回しがある。「不動産の世界には2種類の人間がいる。悪い人間と、すごく悪い人間だ」——細かい言い回しは媒体によって違うかもしれないが、不動産業界の本質を一刀両断に表したフレーズだ。正直不動産は、まさにこの言葉が示す業界の構造を、フィクションの形で描き切っている。
これが冗談ではない、というのが本作の重さだ。「いい人」が存在しない業界の中で、永瀬は呪いによって「正直な人」になってしまった異物として動く。両手仲介で利益を最大化する仕組み、おとり物件で客を釣る手口、契約書の小さい字で消費者を縛るやり方——どれも実際の業界で起きていることを下敷きに描かれている。
住居というのは、生きていく上で避けようがない。賃貸でも持ち家でも、人生のどこかで必ず不動産取引と向き合う瞬間が来る。そのときに、業者側の常識を知らない素人は、いくらでもぼったくられる側に回ってしまう。本作はその「ぼったくられない側」になるための、入門書としても機能する。
マンガを読んで知識が増える作品はあるが、「読まなかった場合に、自分が損する金額が見える」作品は、なかなか珍しい。
大学生・これから一人暮らしする人にこそ
この作品を一番強くおすすめしたいのは、これから一人暮らしを始める大学生だ。
人生で初めての賃貸契約は、たいてい大学進学のタイミングで来る。そして、何も知らないまま不動産屋のカウンターに座って、勧められるがままに契約書にサインしてしまう。「初期費用がやけに高い」「敷金が返ってこない」「更新料って何?」「原状回復ってどこまで?」——どれも、知っていれば回避できたはずの損失だ。
大学生に「不動産の入門書を読め」と言っても、たぶん読まない。でも「面白い漫画があるよ」と渡せば、読む。本作は、知識ゼロの状態から不動産取引のリアルを学ぶための、最も読まれやすい入り口になっている。
一人暮らしを始める前に1巻だけでも読んでおけば、最初の賃貸契約の場で「ここは突っ込むべきポイントだな」と気づける瞬間がきっと来る。その一回の気づきだけで、本を買った金額の何倍ものリターンが返ってくる漫画だと思う。
もちろん、すでに不動産を所有している人や、これから家を買おうとしている人にも刺さる。不動産取引が人生で1回でも発生する予定があるなら、読んで損は無い。
絵・演出について
大谷アキラの絵は、ビッグコミック系の落ち着いた青年マンガ路線。キャラの顔の描き分けがしっかりしていて、表情の機微で「この人は嘘をついている」「この人は本当に困っている」が伝わるのがお仕事マンガとして強い。
特に永瀬の「呪いで嘘が口から出ない」瞬間の表情演出が秀逸。顧客の前で嘘を吐き出そうとして、口元が引きつるあのコマ——営業マンとして致命的な瞬間が、毎話違うパターンで描かれる。同じ「嘘がつけない」設定で何十話も読ませてしまうのは、絵の説得力が大きい。
気になった点
前述したとおり、文字量と専門用語の多さは人を選ぶ。マンガを娯楽として軽く読みたい人には、初回のハードルが高めだ。気が乗らない時に開くと、情報量に押し戻されることもある。
それから、不動産業界の闇を描く作品なので、トーンは基本的にシビア。明るく爽快な気分で読み終わる、というタイプの漫画ではない。読後に「現実に怒り」「現実への警戒心」が残るタイプ。それも本作の魅力ではあるが、心が疲れている時にはあまり勧められない。
- これから一人暮らしを始める大学生(最重要)
- これから家を買う・借りる予定のある人
- 業界もの・お仕事マンガが好きな人
- マンガから実用知識を得たい人
- 集中して腰を据えて読むタイプの漫画が好きな人
- ながら読み・気楽な娯楽として漫画を読みたい人
- 専門用語の多い作品が苦手な人
- 明るく爽快な読後感を求める人
勉強になる × 面白い、を両立した稀有な業界マンガ。住居は誰もが避けては通れない人生のテーマで、本作はその世界の内側を素人にも分かる形で見せてくれる。読まなかった場合に自分が損する金額が、目に見えるタイプの漫画は、なかなか他に無い。集中して腰を据えて読む価値のある一作。これから一人暮らしを始める大学生には、特に強くおすすめしたい。
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