まず結論から
大好きな作品。芸能界・アイドル・転生・復讐劇・ミステリ——複数の要素が一本の物語に編み込まれていて、その編み方が見事だった。読み終えた後、何日も頭から離れなかったタイプの作品だ。
自分は涙脆いタイプではない。それでも、ラストでは感情移入せずにはいられず、ものすごく揺さぶられた。16巻という決して長くない尺の中で、これだけ感情を持っていかれる作品は、自分の経験上そう多くない。
出だしの衝撃について(ネタバレなし)
初見はまず、出だしでめちゃくちゃ驚いた。これは推しの子を語るうえで誰もが触れる話だが、自分も例外ではない。「ふつうのアイドル漫画かな」と思いながら読み始めて、第1話のある場面で椅子から立ち上がりそうになった。
具体的に何が起きるかはここでは書かない。初見の衝撃は、初見の人にしか味わえない財産だからだ。これから読む人には、できれば事前情報をなるべく入れずに第1巻を開いてほしい。あの体験を知らずに済ませるのは、かなりもったいない。
この出だしのインパクトが、その後の長い物語を最後まで引っ張る燃料になっている。第1話の仕掛けは単なるツカミではなく、作品の根っこに直結する設計になっていて、最終巻に至るまで効いてくる。読み終わった後にもう一度第1巻を開くと、解像度が変わる。
どんな漫画か
物語の主軸は、双子の兄妹・星野アクアと星野ルビーが、母親であるトップアイドル星野アイにまつわる「ある事件」の真相を追いかける、芸能界×復讐劇だ。アクアはしたたかで冷静、復讐の炎を内側に秘めて行動するタイプ。ルビーはまっすぐで明るく、自分の道としてのアイドルを真剣に追いかける。同じ家庭で育った双子なのに、目指す方向と感情のあり方が真逆——この対比が物語の縦軸になっている。
物語の横軸として、芸能界そのものの描写が異常に解像度高い。恋愛リアリティショー、2.5次元舞台、映画製作、SNSと誹謗中傷、原作者と脚本家の関係、子役問題、メディアミックスの現場——「業界の中を覗いている感覚」を読者に与えてくれる作品で、これが復讐劇の重さを支えている。
キャラクターについて — 個人的にはメムちょ推し
主要キャラのバランスが本当に良い作品だ。アクアのしたたかさ、ルビーのまっすぐさ、有馬かなの不器用さ、黒川あかねの賢さ——それぞれが独立した個性を持ちながら、物語のどこかで必ず必要になる。群像劇としての設計が巧い。
そしてここで自分の推しを書いておきたい。個人的にはメムちょ推しだ。
メムちょは元々YouTuber・アイドルとして登場するキャラだが、本人の立ち回りが本当に賢くて、自分の見せ方と引き出しの使い方を完全に理解している。「ステージの上の自分」と「ステージの外の自分」の切り替えが上手いタイプのキャラで、出てくるたびに作品の温度を一段上げてくれる。アクアやルビーが背負っている重みを、ふっと軽くしてくれる稀有な存在感がある。
主人公兄妹の物語が重くなる回ほど、メムちょの登場が効く。アクアの闇に対するルビーの光、というメインの対比とは別に、メムちょは「軽さ」と「賢さ」を同居させた第三の角度から物語を支えてくれている、と自分は読んでいた。
どの章も目が離せない
推しの子は章ごとに舞台と題材ががらりと変わる作品だ。恋愛リアリティショー編「今からガチ恋始めます」、2.5次元舞台編「東京ブレイド」、そしてその後の章——どれも目が離せない。
「今ガチ」編では、SNS時代の誹謗中傷とリアリティショーの構造的な問題に踏み込む。「東京ブレイド」編では、原作者と脚本家、製作と現場の関係を、フィクションでありながら生々しく描く。章ごとに「業界の特定領域を解剖する」ような構造になっていて、それぞれが単独でも読み応えがある。それでいて全部が大筋の復讐劇に繋がっているのが、本作の構成の上手さだ。
宮崎ロケ以降の感情のぐちゃぐちゃ
そしてここを書きたかった。宮崎・高千穂でのロケパート以降、自分の感情がしばらくぐちゃぐちゃになった。
細部のネタバレは避けるが、この章はそれまでの章とは少しトーンが違う。芸能界の描写から離れて、登場人物たちが自分の内側と向き合う時間が長く取られる。派手な事件が起きるわけではないのに、読み終わった後に頭の中が忙しい。自分の中で整理しきれない感情が、しばらくぐるぐるしていた。
ロケパートの空気感、登場人物たちの距離感、語られないままの感情——あの章を読んで以降、推しの子という作品全体の見え方が自分の中で少し変わった。復讐劇の話だと思っていたところに、もっと別のレイヤーが乗っていることを示唆された感覚があった。後の章を読み進めるときに、宮崎パートで揺さぶられた感情が地続きで効いてくる。
ここで作品をいったん閉じて、何日かかけて感情を整理した。それくらい持っていかれた章だった。
ラストについて — 想像と違ったし、揺さぶられた
ここも具体的なネタバレは書かない。それでも書きたいことが2つある。
ひとつ。ラストは、自分が想像していたものとは違った。復讐劇として読み進めてきたうえで、何通りかの結末を予想していたが、その予想とは違う着地だった。これは作品によっては「裏切られた」と感じる場面だが、推しの子の場合は違った。
もうひとつ。自分は涙脆いタイプではない。それでも、ラストでは感情移入せずにいられず、ものすごく揺さぶられた。16巻かけて積み上げてきたキャラクターたちの感情が、ラストで一気に効いてくる。出だしの衝撃、宮崎ロケの揺さぶり、各章で蓄積された業界描写——全部がそのページに乗ってくる。
賛否のある結末だとは思う。「想像と違う」という時点で、想像通りを期待していた読者の一部は受け取り方が変わるはずだ。それでも自分は、この結末で良かったと、最終巻を閉じた時点で受け止めることができた。「揺さぶられた」という事実が、自分にとっての肯定の証だった。
アニメ版について — 1〜3期どれも面白い
アニメ版もとても良くて、何度か見返している。第1期、第2期、第3期、どれもクオリティが高い。
第1期はあの出だしの衝撃を、映像と音楽で増幅して届けてくれた。OPの「アイドル」(YOASOBI)が作品の入り口として完璧で、原作既読者にもアニメから入った人にも、新しい体験になっていた。第2期は東京ブレイド編を中心に、舞台演出の凄みと現場の生々しさを映像で再現。第3期は物語が大きく動く章を、原作の重みをそのまま映像にしている。
そして第4期(Final Season)が制作発表済みで、原作のラストまで描かれることになる。原作で揺さぶられた感情を、映像でもう一度浴びることになると思うと、待ち遠しい気持ちと「もう一度耐えなきゃいけない」気持ちが半々だ。それでも見る。これは見逃せないタイプの最終章だ。
気になった点
前述したが、ラストには賛否が分かれる。これは作品の質の問題ではなく、結末の方向性が読者の期待と一致するかの問題だ。「想像通りに終わってほしかった」派には、消化に時間がかかる結末だと思う。それでも自分は、揺さぶられた事実を肯定として受け止めた。
それから、芸能界の業界描写が解像度高い分、「業界に興味がない」読者にとっては情報量が多く感じる場面もあるかもしれない。リアリティショー、舞台、映画、SNS、子役問題——テーマが広いので、関心のない領域だとややスルーしたくなる章も人によってはあるはず。
- 出だしの衝撃で持っていかれたい人
- 芸能界・アイドル業界の解像度高い描写が好きな人
- 群像劇として読みごたえを求める人
- 感情を揺さぶってくれる完結作を一気に読みたい人
- 原作とアニメの両方を行き来したい人
- 明確な勧善懲悪・スカッとした結末を求める人
- 重い感情を引きずるのが苦手な人
- 業界の内幕描写に興味がない人
出だしの衝撃、章ごとの題材の深掘り、宮崎ロケの感情のぐちゃぐちゃ、そして想像と違うラスト——この4つが連続して効いてくる、感情を持っていかれる傑作。涙脆いタイプではない自分でも、ラストでは揺さぶられた。アニメ1〜3期もとても良く、4期(Final Season)が待ち遠しい。完結作なので一気読みできる、そして一気読みする価値のある作品だ。
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