まず結論から

痛快爽快のヒーロー漫画。そして個人的に、一番「絵」に惹かれるマンガだ。

2000冊以上読んできて、絵の凄さで突き抜けている作品はいくつかある。だがワンパンマンのように、「ギャグ系の出オチ的な設定」と「ジャンプ作画陣の頂点クラスの画力」が同居しているマンガは、なかなか他に思い当たらない。村田雄介の絵を浴びるためだけに、新刊が出るたびに開いている。

どんな漫画か

主人公はサイタマ。趣味でヒーローをやっている、線の少ないハゲのおじさんだ。そして強すぎる。3年間「腕立て・腹筋・スクワット100回ずつと10kmランニングを毎日」のトレーニングをやり続けた結果、限界を超えてしまった——という、嘘みたいな設定の最強キャラ。

どんな怪人も、宇宙からの侵略者も、自然災害級の脅威も、サイタマがワンパンで終わる。地球の命運をかけた戦いも、ご近所のスーパー特売の話も、ほぼ同じ温度で並んで描かれる。脱力系のギャグと、超本格バトルが、同じページの中で同居している。それがワンパンマンの基本構造だ。

絵に一番惹かれるマンガ

この記事で一番書きたいのはここだ。

村田雄介の絵は、ギャグ漫画の作画として明らかに過剰である。怪人のデザインの異形さ、戦闘シーンのスピード感、爆発・破壊・衝撃波の描き方、街の崩壊シーンの構図——どれを取っても少年バトル漫画の最前線レベル。連載作家としての画力でいうと、ジャンプ系の中でも頂点クラスだと思う。

そしてその画力が、「サイタマがワンパンで終わる」というギャグ的な落ちのために投入されている。これがワンパンマンの作家陣の度胸の凄さで、緻密に描き込まれた敵キャラが、サイタマの拳一発で粉々になる。「描き込みの労力に対して見返りが軽すぎる」のが、逆に最高の演出になる。

そしてもうひとつ、大勢が見流してしまうであろう扉絵1枚にも、自分は目が止まる。本編とは別に1枚絵として完成度が高いものが多くて、毎巻買って何より「扉絵」を見るのが楽しみになる。連載漫画の扉絵をここまで作品として成立させているのは、結構珍しい。

線の少ないサイタマ、描き込まれた世界

ワンパンマンの絵の魅力を語る上で、外せないのが「サイタマだけ線が少ない」という構造だ。

怪人もヒーローも背景も、毎ページ村田雄介の細密な線で埋め尽くされている。ところがそこにポンと置かれるサイタマは、ほぼ丸と線だけで描かれるシンプルキャラ。同じコマの中に、絵柄の異なる二つのレイヤーが共存している。そしてこれが奇跡的にうまく機能する。

線が少ないサイタマは、その情報量の少なさで「無感情・無関心・脱力」の空気を持っている。一方で、緻密に描かれた敵や仲間たちは、「真剣・絶望・覚悟」の空気を持っている。絵柄のレイヤーがそのまま、温度差のギャグとして成立している。これは原作ONEの構想と、村田雄介の作画力が、それぞれ独立して機能しながら噛み合うことで成り立つ稀有なバランスだと思う。

主人公だけシンプル、周りはガチ。この発明は、ワンパンマンの根幹を支えている。

「ワンパン待ち」が楽しい、という不思議

普通のバトル漫画の楽しみは、「主人公が苦戦して、知恵と覚悟と仲間で勝つ」プロセスにある。ワンパンマンはそれが無い。サイタマは最初から最強で、誰と戦ってもワンパンで終わる。これは本来、バトル漫画として致命的な欠陥のはずだ。

でも自分は、敵が出てくるたびに「サイタマがワンパンするのを待ち遠しく思ってしまう」。バトル漫画としてあっさり倒されすぎだ、と思いながら、結局その「あっさりさ」がクセになる。これがワンパンマンの不思議な魅力だ。

この読書体験を成立させているのは、おそらく「他のヒーローたちが本気で苦戦している」描写の厚みだ。S級ヒーローが命がけで戦って勝てない相手を、サイタマが買い物帰りにワンパンする。苦戦シーンの本気度が高ければ高いほど、サイタマのワンパンが効く。だから絵の描き込みが効いてくる。ここでも村田雄介の画力が物語の構造に直結している。

キャラクターについて

サイタマの相方ジェノス、達人・バング、なぜかS級1位のキング、超能力姉妹のフブキ・タツマキ——脇を固めるヒーロー陣が、それぞれにキャラ立ちしている。「主人公が強すぎて成立しないはずのバトル漫画」を、ヒーロー組織側のドラマで支えているのが上手い。

怪人・ガロウ編あたりからは、サイタマ以外のヒーローたちの戦いが物語の中心になる長編が続く。サイタマが出てこない期間が長いほど、出てきた時のワンパンの威力が増すという、読者心理を巧妙に操る構成。連載が長くなっても作品として持っているのは、この緩急のおかげだと思う。

気になった点

強いて挙げるなら、サイタマ以外のヒーロー戦が長くなりすぎる時期があること。読者によっては「もうサイタマ出してくれ」となる場面もある。ただこれは前述の通り、緩急として作品全体には効いているので、構造的な瑕疵ではない。

あと、ギャグ漫画として読み始めた人が、途中から本格バトルの長尺に「あれ、ギャグ漫画じゃなかったのか?」と戸惑う可能性もある。ジャンルの定義が一貫しないのは、人によっては好き嫌いが分かれるかもしれない。

Verdict
総評 — ワンパンマンを読むべきか
こんな人におすすめ
  • 絵が綺麗なバトル漫画を浴びたい人
  • 痛快爽快な「最強主人公もの」が好きな人
  • ギャグとシリアスの混在が好きな人
  • 扉絵やページごとの絵をじっくり眺めたい人
  • 連載作品を長く追いかけたい人
こんな人には向かないかも
  • 主人公の成長・苦戦を読みたい人
  • 「ジャンルを一貫させてくれる作品」が好きな人
  • サクッと完結する作品を求めている人(連載長期)
扉絵1枚にも目が止まる、絵が一番好きなマンガ

痛快爽快なヒーロー漫画として読むのが正しい入り口だが、自分にとってのワンパンマンは「絵を浴びるためのマンガ」に近い。村田雄介の作画クオリティ、線の少ないサイタマと描き込まれた周辺のギャップ、扉絵まで含めた1冊の完成度——これらをまとめて楽しめるのは、現役の連載作品ではかなり貴重だと思う。2000冊以上読んできて、純粋に「絵」で一番惹かれているのは、自分の場合ワンパンマンだ。

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