まず結論から

三ツ橋商事営業部を舞台に、課長・石沢いしざわと新入社員・麦田を中心に描かれるお仕事マンガ。「ちゃんと仕事してる大人」の物語を、コメディの軽さで包んで届けてくれる作品で、社会人の側面でも、マンガとしての側面でも、読み応えが高い。

この記事で書きたいことは三つ。一つは課長がカッコ良すぎる話。二つは新入社員・麦田の逞しさ。三つはピンチをまっすぐさで成し遂げる気持ち良さ。順番に書く。

課長がカッコ良すぎる(労働はしたくない)

課長・石沢が、カッコ良すぎる。これに尽きる。

部下に対して頭ごなしに怒鳴らない、無茶を言わない、それでいて仕事には妥協しない。新入社員の麦田が世代差で当惑する場面でも、「最近の若いモンは」と切り捨てず、彼女の特性を理解した上で導いていく。「上司に求めるもの全部入り」みたいな課長で、読みながら何度も「いいな、こういう上司」と思った。

そして自分のような読者は、こう思ってしまう。「課長の元でなら働きたい」と。

……いや、正直に書いておくと、労働はしたくない。これが本音だ。課長は最高、でも仕事そのものはできれば避けたい。「あの課長の下で働けるなら、労働も悪くないかもしれない」と一瞬思わせて、すぐに「いや、無理だ」と現実に戻る——この往復が、このマンガを読んでいる時の自分の感情の動きだ。これだけで充分エンタメだ。

少し真面目に言うと、これは作品が描く「理想の上司像」が、読者にちゃんと刺さっている証拠でもある。「こんな上司がいたら」という願望を、現実離れさせずに描ききっているのが、本作の作家力だと思う。

麦田の逞しさ — 課長の元を離れても、まっすぐ

主人公の片翼である新入社員・麦田は、最初は世代差ギャップを抱える「今どきの若いモン」として登場する。でも物語が進むにつれて、彼女自身が一人前のビジネスパーソンとして育っていく過程がしっかり描かれる。

特に印象に残っているのは、課長の元を離れた後の麦田が、逞しくまっすぐに仕事に向き合っているところだ。新入社員時代に課長から学んだことを、自分の言葉と行動に落とし込んで、課長がいない場面でも自分の仕事を成立させていく。「育てられたキャラ」から「自分で立つキャラ」への移行が、押し付けがましくなく自然に描かれていて、説得力がある。

麦田のカッコよさは、課長の派手なカッコよさとは別の方向のカッコよさだ。地に足のついた、新人らしい不器用さを残したまま、それでも前に進むタイプの強さ。読み手として共感しやすく、応援したくなる。

まっすぐさ × 策 — 二層構造の気持ち良さ

本作のエピソード構成は、基本的に「課長や麦田が仕事上のピンチに直面し、最後にはちゃんと乗り越える」流れだ。気概としてはまっすぐ、王道のお仕事マンガ。ところが面白いのは、ピンチの解決にちゃんと「策」が用意されていることだ。

スーパーの立て直しパートをはじめ、章ごとに「そういう手もあるのか」と感心させられる策が練られている。ビジネス書を読むようなおもしろさが乗っていて、社会人の「現場のリアル」を踏まえた策の組み立て方が読み応えに繋がっている。お仕事マンガとして、ここの解像度が高いのは本作の強みだ。

そして本作の上手いところは、その策が機能するのは麦田のまっすぐさが土台にあるから、という構造を作っているところだと思う。どんなに策が練られていても、それを実行する人物に誠実さがなければ取引先も周囲も動かない。麦田の素直さ・まっすぐさが信頼を生み、その信頼の上でこそ、課長たちの練った策が初めて成り立つ。「まっすぐさ」と「策」、この二層構造が本作の気持ち良さの根っこにある。

各パートの最後に「ふう、なんとかなったな」という落ち着いた読後感が残るのは、策の鮮やかさだけでも、まっすぐさの気持ち良さだけでもなく、両方が噛み合った時に初めて生まれる感覚だ。ついつい次の話を読んでしまうリズムは、この二層構造のおかげで成立している。

絵・演出について

吉谷光平の絵は、お仕事マンガとしてちょうどいい温度感。キャラの表情が読み取りやすく、コマ運びがテンポ良い。長い説明セリフを使わずに、職場の空気・関係性・微妙なやり取りを絵で見せてくれるのが上手い。

特に課長の「黙ったまま考えている」コマと、「決断して動く」コマの落差が良い。セリフが少ない場面で、課長のカッコよさが一番伝わってくるのは、絵の力が大きい。麦田の表情のバリエーションも豊富で、彼女が成長していく過程が、表情の変化として可視化されている。

気になった点

「ちゃんとした大人がちゃんとした仕事をする」物語なので、過激な展開や派手なドラマを期待して読むと、淡々として見えるかもしれない。本作の良さは「日常の気持ちよさ」にあるので、ジェットコースター的なストーリーを求める人には合わない。

それから、「理想的すぎる職場」と感じる人もいるはず。現実の職場のしんどさを経験している人ほど「こんな上司いない」と思う瞬間があるかもしれない。だが、これは現実の代替ではなく、現実に向き合うための心の補給として読むのが正しい付き合い方だと思う。

Verdict
総評 — 今どきの若いモンはを読むべきか
こんな人におすすめ
  • お仕事マンガ・社会人ドラマが好きな人
  • 「理想の上司」を浴びたい人
  • まっすぐさと策が噛み合った解決が気持ちいい人
  • 仕事のモチベを少し回復したい人
  • 連載中の作品を毎週の楽しみにしたい人
こんな人には向かないかも
  • 派手なドラマ・激しい展開を求める人
  • 「理想的すぎる職場」に冷める人
  • 仕事の話題そのものを避けたい人
課長の元でなら働きたい(いや、労働はしたくない)

課長のカッコよさ、麦田の逞しさ、そして「まっすぐさ × 策」の二層構造の気持ち良さ。この三つが詰まったお仕事マンガで、社会人の心をじんわり回復させてくれる。読み終わったあとに「ちょっと頑張ろうかな」と思える漫画は貴重だ。とはいえ本音は変わらない——労働はしたくない。それでも、この課長の下でなら少しだけ前向きになれそうな気がする。

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