まず結論から
学生時代に出会って、何年経っても頭の片隅から離れない作品がある。ブラッディ・マンデイは、自分にとってまさにそういうマンガだ。
最高にかっこいいハッカーマンガ。PC一つで国家規模のテロを止めにかかる主人公・高木藤丸の姿は、当時の自分にも、今振り返った自分にも、変わらず刺さる。ITというものの破壊力をまじまじと見せつけて、ページを捲る指を止めさせない。
ストーリーについて
舞台は近未来の日本。バイオテロを企む組織と、それを阻止する天才ハッカー・藤丸の戦い。藤丸はコードネーム「ファルコン」を持つ若きハッカーで、たった1台のノートPCでサーバーに侵入し、暗号を解き、敵の通信を遮断する。
スポーツマンガでも武道マンガでもない。「PC1つで敵の集団を圧倒していく」あの爽快感は、ハッカーものというジャンルだけが持つ特別な気持ちよさだ。もちろん物理的なバトルや銃撃戦もしっかりある。それと並行して、画面の向こうで起きている事件のスケールが大きすぎて、息が止まる瞬間が何度もある。
Season1(全11巻)でテロ事件、Season2「絶望ノ匣(パンドラノハコ)」(全8巻)で続く陰謀、ラストシーズン(全4巻)で完結。通巻23巻、3部構成のサスペンス長編で、最後まで「藤丸が次にどう切り抜けるか」を期待しながら読み進められる。
キャラクターについて
主人公・藤丸はとにかくかっこいい。実力もハートもある。窮地に追い込まれてもキーボードを叩き続けて、活路を切り開いていく。「最強の武器がノートPC」という設定をここまで成立させてしまうのは、原作と作画の力技だ。
ここで一つ、構造の話を書いておきたい。Season1 のヒロインだった朝田あおいが、Season2 以降フェードアウトしていく。代わりにSeason2 から登場する水沢響が、藤丸の真のパートナーとして物語を引っ張っていく。最終的に藤丸と結ばれるのも響のほうだ。
響の活躍はSeason2・ラストシーズンの大きな見どころで、登場以降の物語の支配力は強い。一方であおいは、シリーズ全体を通すと「気がついたらいなくなっちゃったな」くらいの存在感に落ち着いてしまう。ラストで藤丸と響を祝福する側に立つあおいの姿には、ほんの少しだけ切なさを感じた。特別な思い入れがあったわけではないけれど、最初に藤丸を支えていた人がそのポジションに収まる読後感は、ちょっと胸に残る。
絵・演出について
ITをマンガで表現するのは本来むずかしい。コードもUIも、絵にすると結局「画面を見ている人間」のコマにしかならないからだ。
でもこの作品は、画面の向こうで起きている重大事を、コマ割りと見開きで「事件のスケール」として描き切っている。タイピングの一瞬に世界の運命が乗っている、あの緊張感をマンガで成立させているのが凄い。恵広史の絵は、機械やデジタルガジェットの描写が硬質で、ハッカーものの世界観に説得力を与えている。
そして藤丸の表情がいい。冷静なコマ、追い詰められたコマ、覚悟を決めたコマ——どれも「この人、本当にできるんだな」と読者に思わせる重みがある。
藤丸に憧れた話(私事です)
この記事で一番書きたかったのはここだ。
自分は藤丸に憧れて、大人になってからほんの少しだけプログラミングを勉強した。本当にほんの少しだ。仕事になっているわけでも、ハッカーになれたわけでもない。それでも、学生時代に読んだマンガが、何年も経った後の自分の選択にちょっとだけ影響を与えていた、というのは事実だ。
PC1つで敵を圧倒する藤丸の姿が、ずっと頭の片隅にあった。そして気がつくと、自分もコードを書ける人間にちょっとだけなってみようとしていた。マンガが人生に与える影響なんて、本人ですら気づかないうちに効いてくるものだなと、振り返ってよく思う。
そういう意味で、ブラッディ・マンデイは自分にとって「読んだだけで終わらなかったマンガ」だ。2000冊以上読んできた中でも、こういうマンガには数えるほどしか出会っていない。
気になった点
IT描写は連載当時としては精一杯なのだが、現代の技術水準で読み返すと「今ならクラウドで…」「今ならスマホで…」と無粋な突っ込みが浮かぶ瞬間もある。ただこれは作品の魅力を損なうものではなく、むしろ2000年代後半のITの空気感を切り取った時代資料としての価値も加わっている。
あと、後半に行くほど展開が重く、息が詰まる場面が多い。一気読みすると消耗するので、シーズンの切れ目で一息入れるのを推奨する。
- ハッカーものの爽快感が好きな人
- PCで戦う主人公を見たい人
- サスペンスの緊張感が好きな人
- 「人生にちょっと残るマンガ」を探している人
- 恋愛要素にブレない一貫したヒロインを求める人
- 物理的なバトルマンガを期待する人
- 暗く重いサスペンス展開が苦手な人
ハッカーというテーマでこれだけ熱いマンガはなかなか出てこない。サスペンスとしての緊張感、藤丸というキャラの魅力、IT描写の説得力——どれも一級品だ。2000冊以上読んできた中でも、「読み終わった後の人生にちょっと影響を残したマンガ」というカテゴリで言えば、最上位に入る作品。自分は藤丸に憧れて、ちょっとだけコードを書く人間になった。それくらいの影響力がある。